ホラ話なんだけど、ホラ話なりに思うところがあったから報告する。

まず、ババロアの棒って何?とか、棒状を保っている時点でそれはババロアではないのでは?っていう疑問なんだけど、それは凍ったババロアだった。平たくて20cm*5cmほどの長方形。

いや、それより経緯から話すわ。興奮しててつい先走ってしまった。

◆競アザラシ

競アザラシという催しがあって、ジョッキー(キツネザル)を乗せたアゴヒゲアザラシが雪1600mを這ってゴールラインを目指すんだ。んで、その着順に賭けるんです。有り体に言えば違法賭博だ。

池[××××]ャイン水族館の地下59階にある国内最大床面積のイベントホール「濡れ椿」で今回も秘密裏に開催されたんだけど、角界の著名関取がどすこいどすこい言いながら張っただの張らないだの突っ張っただの吊り出しただの、もうすごい熱気さ。

その日の俺はホント負けこんで、ポルコ状態(尻の毛まで抜かれて鼻血もでねぇ状態)だった。まいった、しょうがねぇっつって、表にある「ひまわり小児科」に駆け込んで腎臓売って、680円になったから、大一番、注目レースに全額ブッコんだ。

その日の注目レースの出場アザラシはっていうと、そもそも1レースで96匹のアザラシが出場するわけだから紹介しきれない。最終的に俺は3連単、「エムディーゴ」「シャーワン」「ケッチャック」に賭けた。的中率から鑑みて当然ではあるが、当たれば万馬券ならぬ億アザラシ券になる。券を買うのにちょっと足りなかったから左の腎臓も質に入れた。

アザラシ券には、サングラスを掛けて笑顔で手を振っているアザラシのイラストが印刷されている。愉快かよ。こちとら負けたら腎臓喪失で透析だバカヤロウ。

さて、注目レースだけあって入りが凄い。競アザラシはもともとが相撲賭博から発生したものであるから、相撲の文化が無茶な感じに取り入れられている。$1$(≒1$)で販売されている塩(バスソルト)を相撲取りが買っていって、トラックに撒いたりしていてすごい景色だ。

想像してみろ。莫大な資金をかけて建造された巨大な地下施設に人口雪が吹きすさび、背に猿を乗せたアザラシ96匹が1600mを這う。這う。この地味にも程がある眺めを、バスソルトをキめた相撲取りが狂乱しながら、唾を散らしながら煽っているのだ。この世の地獄か。地獄にしてもどういう地獄だ。

レースはというと、最後の直線で見事「エムディーゴ」「シャーワン」「ケッチャック」とキた!エムディーゴの後方1アザラ身差でシャーワンとケッチャックが競っている状態!

が、しかし!最終坂(競アザラシのトラックには坂がある)を登坂していたシャーワンが脆弱にもよろめき、別のアザラシに衝突してゴロゴロと転がり落ちてしまった。終わりだ。俺も終わりだし、シャーワンくんも食肉場でハッシュドビーフならぬハッシュドアザラシにされてしまう運命だ。

なんということだ。両腎臓を失うのはさすがに困る。なぜ猿を乗せたアザラシの速度なんぞに腎臓を賭けてしまったのか。後悔してもしきれない。

逃げよう。

そう思って出口を振り返った瞬間に、質屋のオヤジに捕まった。

オヤジ「どこへ行こうというのだね」

俺「ハひいぃぃ😫」

俺はすかさず内ポケットからトカレフを引き抜いて突きつけたが、もう…天地がひっくり返った。んで背中からおもっきし冷たいコンクリに叩きつけられましたわ。銃はオヤジの手によって瞬時に解体された。

そらそのオヤジもさ、並み居るお相撲さん相手に商売してるんだから、チャカ持ってるとは言えチンピラの一人くらい捌け無くてどうするってもんだよ。しかしCQCを食らうとは思って無かったよね背中いてぇええええええ!困るわあああああーーーー!!!

◆ババロア工船

ところで、諸君らはあの甘くて柔らかいババロアがどんなふうに製造されるかご存じだろうか。俺は勘違いしていたんだけど、どうやらアレは菓子職人がキッチンで作るものではないらしい。

いや、普通は、というか個人で楽しむものについてはもちろんキッチンで作るだろう。だが、業務用のババロアはそんな方法でちんたら作っていたんじゃ利益にならない。

いままで君は疑問に思わなかったか。なんでババロアが100円/個で食えるのか。冷静に考えれば有り得ない事だとすぐに分かるだろう。ババロアのおいしさであの安さは変だ。おかしい。

異常な低価格の秘密は「ババロア工船(こうせん)」という船にある。

ババロアを工業的に造出するには、溶媒として大量のゼラチンが必要となる。そのゼラチンの原料となるニホンババロアクラゲ(Nemopilema bavarois japonica)を千島列島沖で漁獲し、そのまま船の上でババロアまで加工してしまうという獲工一体のバケモノ船。それがババロア工船だ。

競アザラシでポルコ状態すら突き抜けたこの俺は、親から貰った腎臓を見逃してもらう代わりにそのババロア工船に乗り込むことになった。

「透析よりマシだ」

そんな考えだった。誰しもそうだろう。だが、それは大きな間違いだった。

余裕ぶっこきまくる俺をあざ笑うように、ババロア工船はぷしゅぷしゅと蒸気を吐き、その生贄を三か月間の強制労働に連れ去るのだった。

◆ババロアクラゲ

子供番組かなんかでババロアクラゲを見たことがあるかもしれない。澄んだ青色に丸っこいボディはキャッチーで、マスコットなんか作られていたな。

ババロアクラゲの実際は、そんな愛玩動物のイメージからは何千里もかけ離れたものだ。クラゲらしからぬ鋭い牙を持つことくらいは知っているかもしれないが、牙に負けず劣らず性質も獰猛だ。俊敏かつ的確にエモノの大動脈を切り裂いて血潮をすすり肉を食らう海のヴァンパイア。それがババロアクラゲだ。いやもうヴァンパイアのほうを陸のババロアクラゲと呼んだほうがいいんじゃないのか。それほどまでに圧倒的な狂暴、残忍を見せつけるのだ。

触覚も脅威だ。魚、貝、海獣はもちろんのこと、鳥やヒトに狙いを定めて亜音速で毒触手をたたきつけ、一瞬にして昏睡せしめる。一匹ならまだしも群れで移動するものだから、もう手に負えない。

それがババロアクラゲである。

室町時代の俳句にも、こう詠まれている。

潮騒に

  ばばろあ海月の

    屠り鞭

詠み人死亡

生物と見るや殺しに来るババロアクラゲを、どう捕まえたものか。それはすなわちその殺意を利用するのが賢明であろう。彼らは、「霊長類は頸動脈をぶった切れば死ぬ」ということを教養として知っている。そのため、初撃は10割で首に来るのだ。コンマ数秒後の二撃目は肺、または心臓と続く。

海の覇者として君臨してきた彼らには、怖れというものがない。それゆえに、ある程度の危険はあれど専用の甲冑さえ着込めば死の危険も少なく捕獲することができる。

が、俺の乗った船にそんな設備はなかった。ババロアクラゲ駆除には国の補助金が付く。それを目当てに、行き場のない人間を集めて保険に加入させ、ずさんな装備でババロアクラゲを狩らせていたのだ。

死ぬかと思った。毎日がエブリデイだった。呼吸のタイミングがワンテンポ狂うと死に直結する戦場。次々と襲い来るババロアクラゲを縛っては炉に投げ込み、刺し殺しては炉に放り込む毎日。絶えない生傷。揺れる船。眠れない夜。減っていく船員たち。

それでも何とか2か月と3週間を生き延び、最後の日を迎えた。生きて帰還できたのは俺と、もう一人の船員であるキャロット富岡のみであった。船長もババロアクラゲの吐き出す致死性ガスにより帰らぬ人となった。

キャロット富岡には何度も命を救われ、また俺も彼の命を何度も救った。だが、2人で生きて帰ってこれた喜び以上に、失った友を思う気持ちがやはり大きかった。

冷凍されたババロアの延べ棒の積み下ろしをしつつ、これからの人生を想った。生きたかったのに死んでいった船員たちに報いるために、どう生きていけばいいのだろうか。俺が生き残ってしまった意味、俺が明日を生きる意味とは何なのだろうか。

こぼれそうになった涙をぐっと堪え、空を見上げた。その次の瞬間、吸盤で船体に張り付いていたババロアクラゲが俺めがけて不可視の毒針を吹き付けてきた。

俺は、狙われていることに気づいていた。あの殺気に気づけないようではババロアを作ることはできない。だが、一瞬、避けることをためらってしまったのだ。これで苦しみから解放される…楽になれる…

無意識にそう思ってしまったのかもしれない。

◆ババロアで殴られた

俺は地に伏していた。だが、死んではいなかった。苦しくもない。

何が起きたのかわからなかった。俺は刺されたのでは。

体を起こして向き直ると、そこには苦痛に顔を歪ませるカモミール田中がいた。

俺「なっ…カモミール田中!おい!」

田中に駆け寄り、その体を引き起こした。

俺「なんで…クソッ!みんな死んじまうのかよ…!俺が…俺が死ねばよかったのに…!」

カモミール田中「馬鹿野郎…お前、それ…本気で言ってんのか…!」

カモミール田中は、手に持っていたイチゴババロアの延べ棒で力なく俺を殴った。

と同時に、俺の脳裏に在りし日の記憶がよみがえった。

(省略)

俺「そうだ…俺は生きる!ベルセルクが完結するその日まで!」

カモミール田中「そうだ…それでこそ俺の…息子…」

俺「なんだって…!?父さん!父さーーーん!」

カモミール田中の鍛え上げられた肉体は、ババロアクラゲの毒により朽ち果て、風に吹かれて崩れ去ってしまった。

◆結論

っていう流れでババロアで殴られたわけよ。ホラ話なんだけども。

最後のほう書くの面倒になってもう投げやりすぎる。

まぁいいや。そもそもなんなんだコレ。何が目的だ。