キングオブコント2022のネタ評を書いたんだけど、お笑いの日2022のすべてを見てはいなかった。そして今日、ランジャタイ+津田篤弘のプラスワンネタを見てもうブッ飛んだ。お笑いの日の優勝はランジャタイと津田だ。

お笑いの日2022 お笑いプラスワンFES | TVer

配信いつまでなのかわからない。

◆あらまし

ザ・ヒットパレードの曲に合わせながら津田が「ゴイゴイー♪スーススー♪ゴーイゴーイースーススー♪」って歌うコント。ミュージカルっぽい感じ。わんこそばも食べる。

◆解読

とても緻密に練られたコントであって、練習量が半端なかったことを感じ取れる。初めの流れから全部を見ていきたい。

まず国崎と伊藤が板付きで向かい合い、歩き、「肩がぶつかって~」で始まる。漫才でもコントでも初歩中の初歩であるベタなきっかけだ。我々観客は相応のベタなコントを想起する。ランジャタイを知っている人であればベタそうな始まりでまず驚かされるし、舞台上に津田がいないことはほぼ全員が気にしていない。

そして喧嘩の流れになり、拳を互いに放つ。スローになる。そして停止。否応もなく舞台中央に視線と期待が注がれる。どうなる。奥にあった箱をぶち破ってタキシードを着た津田が登場し、「ゴイゴイスー!」と叫ぶ。その後どうする。BGMに合わせて「ゴイゴイー♪スーススー♪ゴーイゴーイースーススー♪」と歌いながらツラに歩いてくる。

恐らくはミュージカルゴイゴイスーが最初にあって、その始まり方として前記内容を用意したんだろう。本当に凄い。状況を理解する方法は客に対して用意されておらず、滑りかねん。それなのに絶対に面白い。準備がちゃんとなされているから異常を面白いと感じさせられてしまう。

BGMを引き続き流しつつ津田の語り。録音した津田の声が流れる。録音を流すことにより津田が

  • 照れて笑っちゃったり
  • セリフを噛んだり
  • 間違えたり
  • 速く/遅く読んで曲からズレたり

するような冷える事故を完璧に抑制しつつ「時間を止めて皆様の脳に直接ゴイゴイスーすることができます」とカバーしている。意味が分からんのだけど、とにかく原理説明があったので飲み込もうと思えば飲み込めるような状態にしてくれて安心できる。締めの「今日も楽しくゴイゴイスーでいきましょう」なる言葉も軽妙かつ意味不明で楽しいし、畳みかけるように歌を再開されると全部丸く収まったかのように振舞われた気持ちして笑ってしまう。なにも理解できてないのに。

歌の状況から剥がさねばならんのだけど、「わんこそばの時間」が来たことによって(申し訳ないが)曲を止めざるを得ないということにする。例えば曲の終わりまでやってしまうと、止まっている国崎と伊藤が余り続ける。また、歌い終わりで曲を閉じるのも回数制限あるから節約せねばならない。

わんこそばを食すことによりゴイゴイパワーをチャージして奇跡を起こせば、ながらく停止していた国崎と伊藤を動かせる。ダウナーなわんこそばパートによりメリハリも付くから見やすくもなる。パズルみたいに組み立てられたコントだ。

わんこそばスペースへ移動する動きや、食べ始めるタイミング、顔の動かし方など全てがとても滑らかで練習量が伺える。一番笑えるように組まれてる。録音を流すことについて前段で合意済みなので食べながらの説明が可能であるのも凄い。

わんこそばで落ち着いたから、次の展開としては歌わねばならない。国崎と伊藤は鳥にすることによって動かす。歌に備えてどういう奇跡が必要だったかといえば、さっきもあった「歌による客の丸め込み」が一番活きるようなものであって、つまり客の脳をハテナで埋め尽くさねばならない。笑わせてはならない。ポカンとさせた後、したり顔で「ゴイゴイー♪」と歌い始めれば「いや何も収まってないぞ」と思わせることができる。

歌の状況からまた剥がすんだが、今度は歌い終える。振り付けが細かくて秀逸。楽しい。歌い終えたんなら一般的なミュージカルと同じように次の展開へどう繋げても許される。今回は、くノ一とのデートに向かわねばならんという話に繋がる。

くノ一は見た目でそれと分かりやすいし女性であることも自明なので有利。背後のモニターにラブラブな様子を映すのもバカバカしくて面白いし、津田は一般社会に生きていると再確認させる効果もある。場面転換の手間を消すために舞台にくノ一を投入。別れ話を切り出して起承転結の転を強制実行する。ハリウッド映画ばりにとってつけたような苦難をぶち込めば、それを解消して陳腐なハッピーエンドに繋げることができる。

別れ話に対するツッコミが全て大声の「なんでや!」なのが投げやりすぎて面白いし、くノ一が何一つ時間を割こうとしないのも簡単で面白い。三回目の「なんでや!」が活きるようにするには人間じゃない彼氏を配置する必要があるだろうしハンドソープくんはあり得る。

モニターに母ゴイゴイスーが出てきて励ます。重要度の低いラブラブ写真の表示にモニターを使ってあるんで、モニターを使うことについて合意は取れている。説得力を持った上位存在を登場させたいんならモニターに映すのがいいだろうし、誰を映すかって言ったら励まして奮い立たせる存在で、親族は適合する。母からの激励により全身全霊のゴイゴイスーを全国の皆様に差し上げることを誓う。

そして「全身全霊!ゴイゴイスー!」というシャウトと共に「全身全霊ゴイゴイスー津田篤宏」という安いテロップが表示されて俺はもう駄目だった。

歌に入るのかと思いきや、本当に全身全霊でゴイゴイスーを連打し始める。これは映画でいうところの努力パートを表現している。初めに観客から受ける「全身全霊でゴイゴイスーしたところで何になるんだ」という冷ややかな反応に負けじと頑張っている様子がピッタリと浮き出てきて、全身全霊ゴイゴイスーは笑いに昇華される。とはいえスベりそうで危ないんで、エフェクトを乗せたゴイゴイの合いの手も入れておく。普段の津田なら笑っちゃうような動きだけど、たくさん練習したんだろうな。真面目にゴイゴイスーをやり切った。努力を表現したいんだから真面目にやればやるほど面白い。偉いわ。

全身全霊ゴイゴイスーの努力が実り、トドメとなる本意気ゴイゴイスー。カッコいい効果音とフォントとエフェクトで勝利。達成。承認。くノ一が自分のもとに帰ってきてくれる。後はもう大団円だから登場人物全員集まって歌えばいい。客席から音楽に合わせた手拍子が湧いてくるのも当然だ。共感の渦を作ったんだから。

歌い終えたらカーテンコールみたいなので締めれば拍手で終わったんだけど、わんこそば。もうひと展開あるかと思わせつつフェードアウトで仕舞いよ。津田は操り人形なんかじゃなく、生きているんだなと思えた。津田の生態を感じた。ミュージカルならぬコントだった。もう感動した。

◆結

素晴らしかった。ほかのトリオがクソみたいな遊びしか用意してこなかったなかで真剣に時間をかけて芸術作品を作り上げ、生放送でぶちまけた。これぞ芸人。芸人ここにあり。MVPでした。ありがとう。

津田はこの間の脱力タイムズも面白かったし、ランジャタイもバラバラ大作戦で「がんばれ地上波!」始まったから今後が楽しみっすね。